バルーン大動脈弁形成術 BAV

ばるーん だいどうみゃくべんけいせいじゅつ BAV

バルーン大動脈弁形成術 (BAV, balloon aortic valvuloplasty)

 重症大動脈弁狭窄症に対する治療のgold standardは外科的な大動脈弁置換術ですが、高齢やリスクが高く外科手術の適応とならない患者さんに対し、バルーンによる弁形成術(BAV)が1980年頃から行われてきました。

 しかしこの方法は一時的に弁口面積が増加し症状が改善する場合が多いものの、再狭窄が起きる可能性が高く予後を改善しないという事実が判明してから、一時完全に廃れた治療法となっていました。 しかし近年、フランスで経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)という、胸を開けずにカテーテルを用いて大動脈弁を留置することができる低侵襲な治療法が開発されました。この治療法は外科手術の適応となりにくい高リスクな患者さんに対する新しい治療法として欧米を中心に急速に普及しており、2018年現在までに世界中で30万例以上の患者さんが治療されています。

 このTAVIの登場により、今まで忘れられていたBAVの有用性が再び見直されてきました。例えば状態が悪く(低左心機能、コントロールされていないうっ血性心不全、感染、認知症が大動脈弁狭窄症によるものかどうか不明な場合など)、そのままTAVIを行いにくい患者さんに対してブリッジとしてBAVを先行させるなどの治療戦略が考えられます。このような方法を取ることにより、より安定した状態でTAVIを提供できたり、BAVによりさらに全身状態が改善して結果的に外科的な弁置換術が可能となる患者さんもいらっしゃいます。また心臓外科の外科手術前にBAVを行って、周術期の心血管リスクを少しでも下げてから手術を行うなどの手法もあります。

 日本においてもTAVIの保険償還が2013年10月から得られましたので、このBAVを用いてTAVIや外科的大動脈弁置換術へのブリッジとするのは、現代の重症大動脈弁狭窄症の患者さんにとって重要な治療オプションとなりうると考えられます。


しかし注意すべきは、このBAVは根治術ではなく姑息的手段であり、BAVを繰り返し施行しても大動脈弁狭窄症は治らないため予後を改善せず、手技リスク(30日死亡率1-2%)を侵しているにも関わらず、常に突然死のリスクがあることに変わりはないということです。将来的に根治術である外科手術、もしくはTAVIを受けるつもりがない場合にはBAVを施行しても手技リスクを負うだけであり、あまりメリットはありません。ブリッジとしてBAVを施行した場合も、なるべく早期の根治術(外科手術、またはTAVI)が必要となります。また最近ではTAVIのデバイスの進化に伴い、より安全にTAVIが提供できるようになりました。その手技リスクはBAVとほぼ同等という所まできており、TAVIが可能な症例であれば、極力BAVでブリッジは行わずに、直接TAVIを施行する傾向になってきています。

図1.バルーン大動脈弁形成術 BAV ①

図2.バルーン大動脈弁形成術 BAV ②
高度に石灰化し、狭窄を呈した大動脈弁(矢印)に対し、バルーン弁形成術を施行


文責:林田健太郎

小切開心臓手術

最大の特徴は、「小さな創で患者さんに優しい」手術を行っていることです。当院は、低侵襲心臓外科手術、ポートアクセス手術のパイオニアとして、日々技術革新を進めています。

大動脈
ステントグラフト

開胸や開腹を要さない低侵襲な治療法。当院は、国内有数の豊富な大動脈瘤治療実績を有し、特にこのステントグラフト治療は人工血管手術とともにトップランナーとして近年さらに増加し続けています……

心房中隔欠損のカテーテル治療 AMPLATZER

慶應義塾大学 心臓血管低侵襲治療センターは、循環器内科と心臓血管外科が協力し、日本一患者さんにとって優しい治療を提供します。

経皮的中隔心筋焼灼術 PTSMA

症状のある、薬物治療抵抗性の閉塞性肥大型心筋症に対して、カテーテルを使用して純エタノールにより閉塞責任中隔心筋を焼灼壊死させる治療法です。最大の特徴は「低侵襲性」(体力の消耗や傷口が小さい)です。

バルーン大動脈弁形成術BAV

とてもシンプルな治療法で、すぐには開胸手術が難しいような状態の悪い方であっても、この風船治療を行うことで状態が一時的に顕著に改善されます。

経カテーテル大動脈弁留置術 TAVI

重症の大動脈弁狭窄症で、開胸手術による治療が不可能または 非常に困難な患者さんに対する全く新しい治療です。大動脈弁をただバルーンで拡張するだけでなく弁を留置してくる治療法です。

経皮的僧帽弁裂開術 PTMC

カテーテルを用いて足の動脈から直接心臓に到達、硬くなった弁にイノウエ・バルーンを運び、そこでバルーンを広げて、硬くなった僧帽弁を広げる治療。心臓手術に比べ開胸術でなく、患者さんの負担は少ない。

バルーン肺動脈形成術 BPA

局所麻酔下で行う侵襲性の低いカテーテル治療。PEAの適応外とされる高齢者、全身麻酔が困難例、末梢型のCTEPHに対しても治療可能である。複数回の治療により、PEAと同様に根治が期待できる。

慶應義塾大学病院 心臓血管低侵襲治療センター
Keio University School of Medicine Medical Center for Minimally Invasive Cardiac Surgery

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