TAVI タビ

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大動脈弁狭窄症とは?

大動脈弁狭窄症とは、心臓の左心室と大動脈を隔てている弁(大動脈弁)の動きが悪くなり、全身に血液を送り出しにくくなる状態のことです。大動脈弁狭窄症にさまざまな原因がありますが、近年は加齢や動脈硬化が原因の場合が増えてきています。
大動脈弁狭窄症は軽度なものでは症状が現れにくく、他の病気の検査などで見つかる場合がほとんどです。重症になってから発見されることも多く、重症になると狭心症(胸の痛み)、失神、心不全症状(息切れなど)が現れ、治療を行わないと予後不良です。 一般的な生命予後は、狭心症が現れると5年、失神が現れると3年、そして心不全の場合は2年といわれており、突然死の危険性を伴います。

※1 Jhon Ross,Eugene Braunwald. Aortic Stenosis. Supplement V to Circulation, Vols.XXXVII and XXXVIII, July 1968:V61-V67.

※2 Lester SJ, Heilbron B, Dodek A, Gin K, Jue J. The Natural History And Rate Of Progression Of Aortic Stenosis. CHEST. 1998;113(4):1109-1114.

※3 Otto CM. Timing of aortic valve surgery. Heart. 2000;84:211-21.

大動脈弁狭窄症の治療法とは?

重度の大動脈弁狭窄症の治療は手術によって大動脈弁を人工弁に置き換える方法(大動脈弁置換術)で行われますが、手術のために大きな傷をつくること・心臓を止めて人工心肺装置を使うことなどが体への大きな負担となるので、高齢の方や他の病気を患っている方では手術が無理だと判断される場合が多くありました。TAVIはそのような状態にある方々に向けた新しい治療法なのです。
TAVIが始まってから間もなくは、長期成績が出ていなかったため、TAVIは外科的開胸手術のリスクが高い患者さんに限られていました。 最近ではTAVIの成績が開胸手術に比べ、同等かさらに安全になってきたため、リスクが低い患者さんや比較的若年の患者さんにも施行されるようになっております。
2020年に改訂された日本循環器学会の弁膜症治療のガイドラインでは、年齢に関して優先的に考慮するおおまかな目安として80歳以上をTAVI、75歳未満がSAVRとなっております。また患者さんのご希望も十分に考慮することが記載されています。
(弁膜症治療のガイドライン)
現在では手術低リスクの患者さんへのTAVIも承認されており、またこれまでTAVIが適応とされてこなかった血液透析患者さんに対しても2021年2月1日より保険償還されTAVIを提供できるようになっています。これにより、手術低リスクの患者さんや血液透析中の患者さんも含め、患者さん毎に他にお持ちのご病気や全身状態(元気の良さなど)を考慮して、ハートチームで相談して一番良い治療方法を検討の上ご提案させて頂けるようになりました。

TAVIとは?

TAVI(タビ)は機能が低下している心臓の弁(大動脈弁)をカテーテルと呼ばれる医療用の管を用いて人工の弁と置き換える治療法です。これまで手術に耐えられないと判断された高齢の方などにも可能な大動脈弁狭窄症の新しい治療方法となります。
TAVIとは、Transcatheter Aortic Valve Implantationの略語で、日本語では「経カテーテル大動脈弁留置術」または「経カテーテル大動脈弁植え込み術」と訳されます。
同じ治療方法はTAVR(タバ):Transcatheter Aortic Valve Replacement「経カテーテル大動脈弁置換術」と言われることもあります。

TAVIはカテーテルをどこから通すかにより複数の方法があります。太ももの付け根の太い血管からカテーテルを挿入する「経大腿アプローチ」は、TAVIの基本的なアプローチで、もっとも体に負担が少ない方法です。足の血管の状態によって経大腿アプローチが適さない場合は、肋骨の間を切り心臓の下端(心尖部)からカテーテルを通す「経心尖アプローチ」や上行大動脈、鎖骨下動脈からのアプローチを行います。

Sapien 3
(バルーン拡張型)
Evolut Pro +
(自己拡張型)

当院ではバルーン拡張型弁の最新モデルであるSapien 3や自己拡張型弁のEvolut Pro+など、現在本邦で承認されている全てのTAVI弁、アプローチを使用することができます。
ハートチームで協議の上、治療を希望される患者さんの弁の形や状態に応じて、最適な治療を提供させていただきます。

慶應義塾大学病院・TAVI治療の強み

日本初の資格者を有したハートチーム

慶應義塾大学病院ハートチームの林田 健太郎医師はTAVIが考案されたフランスでいち早く研修を受け、日本人初のTAVIプロクター(指導医)の資格を取得しています。TAVIは日本ではまだ歴史の浅い治療方法ですが現在当院は3名のプロクターがおり、林田健太郎医師は「経大腿アプローチ」、志水秀行教授、伊藤努医師は「経心尖アプローチ」の指導医です。幅広く豊富な経験のある指導医資格者を有するハートチームは日本のトップチームといえるでしょう。

総合病院の安心感

TAVI治療を受ける高齢な方は体力的な問題があったり、他の病気を抱えていたりと不安な面も多くあると思います。ですが、総合病院である慶應義塾大学病院はTAVI治療に直接関わる診療科以外にもさまざまな診療科のスタッフが在籍しており、万が一の際にも迅速な対応ができます。

国内屈指の症例数

慶應義塾大学病院ハートチームでは週4-5例ペースで多くの患者さんの治療を行っています。
2021年度現在1000例以上を治療し、周術期死亡率は1.0%以下となっております。
慶應ハートチームは症例数のみならず、「質の日本一」を追求していきます。

全国からのアクセスに便利な立地

慶應義塾大学病院は東京・山手線内のほぼ中央に位置し、飛行機や新幹線などを利用すれば日本国内どこからでもアクセスしやすい立地です。これまでTAVI治療を受けた方々はさまざまな地域よりいらしています。遠方からの受け入れも積極的に対応しますので、詳しくは「遠方より受診希望の患者さんへ」をご確認ください。

きめ細やかな地域病院との連携

首都圏のみでなく、関東全域やさらに遠方の地域病院とも密に連携をとっております。垣根の低いスムーズな連携を行うことで、より患者さんに寄り添った医療をご提供できるようにしています。

日本人初のTAVI指導医 林田 健太郎医師

私は2009年からフランスの病院でこのTAVIという治療を勉強し始めましたが、当初は10人治療すると1人患者さんが亡くなってしまう非常に危険な手術でした。その時の苦い経験から、いかに安全にこの治療を日本に導入するかということを自分の最も大切にしているミッションとして取り組んでいます。幸い2012年にヨーロッパでのTAVIプロクター(指導医)資格を取得し、現在までに日本やアジア各地で100施設、400人以上の患者さんの治療のお手伝いをしてきました。また当院では2013年からTAVIを開始し、現在1000人以上の患者さんを治療しましたが、平均周術期死亡率は1.0%以下となっています。
今後も日本の患者さんに安全なTAVIを提供し続けています。

また当院は日本の多くのTAVI実施施設から医師や看護師の見学を受け入れ導入のお手伝いをしており、またそのような施設からリスクの高い患者さんのご紹介をいただき、治療にあたっています。さらに新規TAVIデバイスや僧帽弁治療デバイスの臨床治験にも積極的に取り組み、患者さんによりよい医療を提供するべく、チーム全体でミッションを共有し、日夜努力し続けています。

私たちが最も大切にしているのは、患者さんとご家族の幸せです。もし少しでも気になることがあったら遠慮せず、なんでもおっしゃってください。

慶應ハートチームは、みなさんに元気で長生きしていただけるよう、最高の治療を提供させていただくために日夜努力しております。

TAVI治療の流れ

慶應義塾大学病院を受診

かかりつけの病院・クリニックから慶應義塾大学病院へご紹介いただいてください。大動脈弁狭窄症については月曜日午前の林田医師の外来にて診察します。
医療機関からの診療予約については「患者さんの紹介について(医療機関のみなさまへ)」を参照ください。患者さん自身が診療予約をする場合は「診察のご予約の流れ」を参照ください。
遠方からの受診希望の方は、初診外来を省いて直接、検査入院いただくことも可能なケースがありますので「遠方より受診希望の患者さんへ」をご確認ください。

検査入院

TAVI治療を含めた治療法検討のために必要な検査を行う入院です。入院期間は2泊3日~3泊4日程度。基本的な検査の内容は、血液検査、心電図、胸部レントゲン、呼吸機能検査、頸部血管超音波、血圧脈波、心臓超音波、心臓CT、心臓カテーテル検査などとなります。
入院中にはご本人・ご家族に担当医師によるTAVI治療の説明なども行います。

ハートチームカンファレンス

慶應ハートチームの医師たちが治療方針に関して話し合います。検査結果を踏まえてご本人の状態、病状およびご希望も加味したうえで、循環器内科・心臓血管外科・麻酔科の各専門領域の知見を総動員し、もっともご本人のためになる治療方法を検討していきます。
治療は「大動脈弁狭窄症の治療とは?」で紹介したいずれかの方法で行なわれます。

入院

TAVI治療の数日前に入院となります。入院の準備・注意点などについては慶應義塾大学病院「入院される患者さん・面会の方」を参照ください。

TAVI施行

ハイブリッド手術室に入室して頂き、全身麻酔または局所麻酔下でのTAVIを行います。ハートチームのメンバーで治療に当たり、治療が終わりましたら集中治療室に帰室となります。

TAVI施行後・リハビリ

一般病棟に戻ってから、1日でも早くお元気に退院できるようにリハビリを行います。理学療法士・看護師を中心とした親身なケアを行います。

検査入院時に治療に備え身体・栄養状態をしっかりと確認します。事前に適度な運動を行っていただく場合もあります。
TAVI後は早く日常生活に戻れるよう翌日から積極的に身体を動かします。
治療後には息切れや胸の痛みがとれ、治療前より活発になる方が多くいます。軽くなった身体に慣れていただき、適度な運動量の目安を確認していただくことも我々の役割です。

リハビリテーション科 理学療法士 福井奨悟

退院

治療の経過が順調で、リハビリにより問題なく日常生活が送れるようになりましたら、退院となります。

退院後の生活

塩分・水分制限を守り、処方されたお薬(抗血栓薬など)を飲んでください。 活動の制限は設けないことが一般的です。
定期的に外来通院があります。地域病院と連携しながら治療後もしっかりと医療をお受け頂くことができます。

慶應ハートチーム

TAVI治療にはカテーテル治療専門医、心臓外科専門医、イメージング専門医、心臓麻酔専門医やその他コメディカルなどからなる強固な「ハートチーム」の形成が必要不可欠です。慶應義塾大学病院でも専門のハートチーム体制を整えて、万全の体制で治療を行っています。

家田 真樹 循環器内科教授

慶應義塾大学循環器内科では、心臓弁膜症、先天性心疾患、心筋症や不整脈などのさまざまな領域で患者さんに優しい最先端の低侵襲治療を積極的に行っております。当科はTAVIなどの先進的カテーテル治療を国内で先導的な立場で普及させると共に、本邦最大規模のTAVI実施施設としてこれまで多くの患者さんを治療してまいりました。また他施設では治療困難な重症患者さんに対しても、ハートチームの力を結集して1人1人に対し細心の注意を払い、安心安全な高難度医療を提供しております。私たちが最も重視しているのは患者さんおよびそのご家族との対話を通した最適な医療の提供です。どうぞ安心して当科を受診してください。

志水 秀行 外科学教授 心臓血管外科・診療科部長

心臓血管領域の最先端医療のひとつに大動脈弁狭窄症に対する“経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)”があります。
TAVIは、大動脈弁狭窄症のスタンダードな治療法である“開心術”で不可欠な人工心肺を用いずに、非常に小さい皮膚切開で、短時間に施行できる術式で、非常に魅力的な低侵襲治療(身体への負担が少ない治療)です。一方で、まだ新しい治療法なので、課題があることも事実です。 ですから、TAVIにおいては高い技術レベルは勿論ですが、それに加えて、個々の患者さんに対する適応判断(TAVIが最適な治療法であるかどうかの判断)、リスク軽減のための工夫、安全性の確保なども重要です。
慶應義塾大学病院では、一人一人の患者さんに対して、高いレベルの専門的な知識や技術を持ったさまざまな診療科の医師、技師、看護師などが一つの“ハートチーム”として診断から治療まですべての過程で高い総合力を発揮できる体制を構築しており、国内有数の手術件数と最高レベルの治療成績を達成しています。

TAVI Q&A

Q. 遠方なのですが、慶應義塾大学病院で治療は受けられますか?

A. もちろん受けられます。また、遠方の患者さんの場合、初診外来を省き、直接検査入院頂くことも可能です。詳しくは、TAVI治療の流れ、遠方より受診希望の患者さんへを参照下さい。

Q. TAVIの治療費は?

A. TAVIの治療には健康保険、高額医療制度が適応されます。費用は年齢や所得によって異なりますが、おおよそ5万~20万円です。

例:TAVI治療入院(約7日~14日)の場合(高額療養費制度[一般所得者]を利用)

70歳未満の方 70歳以上の方
約14万円 44,400円

※部屋代・食事代は別途必要です ※上記はあくまで概算です

Q. どんな人がTAVIに適応しますか?

A. 一般的には、ご高齢のため体力が低下している、もしくはその他の疾患などのリスクを持っているなど、開胸手術ができない重症の大動脈弁狭窄症患者さんにとって、TAVIが治療の選択肢の一つになります。

Q. 年齢が若くてもTAVIを受けられますか?

A. TAVIが日本で開始されてからまだ10年程度しか経っておらず、それ以上の長期成績がまだ明らかではありません。そのため、現在では60-70歳程度までの患者さんであれば通常、長期成績も担保されている開胸手術が標準治療となります。しかし、これまで何度か開胸手術を受けたり、手術の危険性が高い方などは、TAVIの適応が検討されます。

Q. 自分が大動脈弁狭窄症かどうかを知りたいですが、どうすればいいですか?

A. 気になる症状がある場合、まず一度かかりつけの医療機関とご相談ください。聴診やエコー検査で評価を受けることになります。

Q. 治療による痛みはありますか?

A. 治療は麻酔をかけて行われますので、痛みを感じる事はありません。
治療後にカテーテルを挿入した太ももの付け根に不快感があったり、経心尖アプローチの場合には傷口の痛みが残ることがあります。これらは数日から一週間でおさまります。

Q. TAVIで使われる生体弁の耐久性はどのぐらいですか?

A. 海外の報告1によるとTAVI生体弁留置後10年の追跡調査において、再治療を必要とする生体弁の構造的劣化は6.5%でした。

※1 Sathananthan J, Lauck S, Polderman J, et al. Ten year follow-up of high-risk patients treated during the early experience with transcatheter aortic valve replacement. Catheter Cardiovasc Interv. 2020; 1-7.

Q. 透析患者でもTAVIを受けられますか?

A. 血液透析患者さんは開胸手術が高リスクとなる場合が多くありましたが、これまでTAVIは適応とされてきませんでした。しかし2016年より大阪大学と当院で血液透析患者さんに対するTAVIの治験を開始し、2021年1月に薬事承認が得られ、2月1日より保険償還されました。これにより血液透析患者さんに対してもTAVIを提供できるようになっています。

地域との医療連携

慶應義塾大学病院では地域の医療機関と連携して治療を進めます。TAVI治療が必要な方をご紹介いただいたり、TAVI治療を行った方のケアを連携して行います。

足利赤十字病院 循環器内科医師

これまで10人の患者さんを紹介させて頂きました。いずれも、開胸手術が現実的に難しいけど、大動脈弁狭窄症の治療さえ受ければ元気になれるはずなのに・・・と思って困っていた患者さんでした。なかには心不全のコントロールがつかなくて、早めにTAVIへのブリッジとしてBAVが必要な患者さんもいましたが、電話で相談したらすぐに転院の手配をして頂けました。足利から慶應義塾大学病院まで100km近くありますので紹介の話をしたときに、移動に負担がかかるという理由でやや難色を示す患者さん・家族もいました。しかし、慶應病院で治療を受けた後に元気になって足利の外来に帰ってこられて、皆さん「本当に先生に言われて慶應まで行ってよかった。」と感謝してくださっています。また、スタッフの丁寧な対応、説明に満足されて帰ってくる方が多いです。慶應でTAVIを受けられた患者さんは、みなさん今も元気に、畑仕事、ゴルフ等を楽しんでいらっしゃいます。

私、個人としては、TAVIの際には連絡を頂き、紹介医として治療に参加させて頂いています。術前の評価で撮ったCT画像、心エコー所見についてもフィードバックがありとても勉強になっています。

お問い合わせ

「大動脈弁狭窄症と診断されたが、TAVIでの治療が受けられないか?」「診察した高齢な患者が大動脈弁狭窄症で外科的治療が困難だと思われるが、TAVI治療はできそうか?」などのTAVI治療に関するお問い合わせには、お問い合わせフォームより受け付けています。

お問い合わせフォーム

慶應義塾大学病院 外来予約センター
03-3353-1257
(午前9時00分~午後4時00分)

TAVI治療にご興味のある医師の皆様へ

慶應義塾大学病院でのTAVI治療について紹介医の先生方向けにわかりやすいパンフレットを作成しました。どうぞご利用くださいませ。 TAVI紹介パンフレット

(C) 2020 慶應義塾大学病院 ハートチーム