心房細動とは?

心房細動は心臓の調律異常です。

心房細動(しんぼうさいどう)とは、右心房と左心房に小刻みで不規則な震えがみられる状態で、加齢とともに増加します。
また、心肥大や心筋梗塞、弁膜症などの心疾患に伴って生じやすくなることが知られています。
心房細動が起きると、無秩序な電気信号が心房を小刻みで不規則に震わせ、規則正しい拍動ができなくなり、
心房や心室が協調して働くことができなくなります。
このため、心臓が血液を全身に送り出すポンプ機能が20~30%も低下します。

心房細動と脳卒中のリスク

心房細動に最も多く、最も怖い合併症が脳卒中です[1]

心房細動によって、心臓の左心耳(LAA:Left Atrial Appendage)に血液が滞留して血栓が形成されることがあります。
血栓が動脈を通って脳に達すると脳卒中に至る場合があります。
心房細動に対し適切に対処しないと、正常な心調律の人に比べて脳卒中のリスクが高くなることがわかっています[1]。

心房細動による脳卒中リスクはどの程度ですか?

心房細動は、心房のポンプ効率を最大30%も低下させます。ポンプ機能が低下すると、
心臓の各部屋で血栓が形成されるリスクが高まります。
血栓が剥がれて血流に乗り、脳などに移動することがあります。

  • 心房細動患者さんの約3分の1が脳卒中を発症することが報告されています[2]
  • 心房細動による脳卒中によって、死亡や後遺障害を引き起こす確率が高くなることが報告されています[3,4]
  • 心房細動では、左心耳(LAA)と呼ばれる小さな袋で形成される血栓が
    脳卒中の主な原因と考えられています[5]

どうすれば脳卒中のリスクを
減らせますか?

現在では、脳卒中や血栓による合併症を予防するための多くの治療法があります。

代表的な治療法は以下のものがあります。
・抗凝固薬
・経皮的左心耳閉鎖術
・外科的左心耳切除術

それぞれの治療法にメリット・デメリットがあり、症状や脳卒中リスクやその他の症状に基づいて、ブレインハートチームカンファレンスで議論し、患者さんに最適な治療法を提示しています。

抗凝固薬

薬剤によって、脳卒中を引き起こす血栓形成リスクを低減できます。

  • アスピリンなどの抗血小板薬は、血液中の血小板が互いに付着して血栓を形成しないようにします。
  • ワルファリンなどの抗凝固薬も、血液中で血栓が形成されるのを防ぎます。最近ではDOAC(直接経口凝固薬)と呼ばれる新しい抗凝固薬も発売されており、食事制限などがなく内服されている患者さんも多くいらっしゃいます。

ワルファリンなどの抗凝固薬は50年以上にわたって心房細動患者さんの脳卒中リスク低減に使用されており、多くの患者さんにとって非常に有効です。
一方、心房細動患者さんにおいて抗凝固薬の適応であるにもかかわらす、出血リスクが高い等の理由によって長期間の服用が困難な患者さんが存在しています。

経カテーテル左心耳閉鎖術とは?

ワルファリンなどの抗凝固薬を長期間服用できない
心房細動患者の脳卒中リスクに対する新しい治療です。

左心耳閉鎖(LAAC: Left Atrial Appendage Closure) システム

経カテーテル左心耳閉鎖術のデバイスを心臓の左心耳(LAA)に留置することで永久に閉鎖し、血栓が全身に飛ぶのを防ぎます。
心房細動の患者さんでは、心臓に起因する脳卒中を生じさせる血栓の90%以上が左心耳(LAA) から発生していることから[5]、左心耳(LAA) を閉鎖することで脳卒中リスクを減らします。また、ワルファリン服用を中止できる可能性もあります。

経カテーテル左心耳閉鎖術とは
どのようなものですか?

経カテーテル左心耳閉鎖術のデバイスは血栓が左心耳より遊離するのを防ぎ脳卒中を起こさないようにしています。
多くの医療機器で使用されている一般的な材質(ニッケル・チタンなど)で製造されており、大きさは500円硬貨ほどであり、体の外からは見えません。

経カテーテル左心耳閉鎖術の
臨床試験

経カテーテル左心耳閉鎖術の治療デバイスのひとつであるWATCHMAN 2.5は2つのランダム化臨床試験より、ワーファリン内服群と比較して出血合併症が少なく、死亡率も低いという結果が得られており、これまでに50,000例を超える患者さんに留置されています。 2021年より最新モデルのWATCHMAN FLX(上図)が本邦でも使用可能となりました。従来のWATCHMAN 2.5と比較して、デバイス留置成功率は高くまた、安全性・有効性共に高い事が報告されています。また、比較的サイズが大きいといわれる日本人の左心耳に対しても幅広く対応可能となっています。

経カテーテル左心耳閉鎖デバイスはどのように留置されますか?

全身麻酔下でデバイスを留置する治療です。医師が脚の付け根の静脈に挿入した柔らかい管(カテーテル)を通してデバイスを心臓まで誘導します。この治療は開心術が不要であり、交換も不要です。
医師はデバイス心臓の右側から左側へ通し、位置を確認したら展開して左心耳(LAA)に永久的に留置します。
手技時間は1時間ほどで、この治療を施行した患者さんは、一般的に手技の翌日から歩行が可能です。また、手技後約45日以降にワルファリンなどの抗凝固薬の服用を中止できる可能性が高いです。

治療の流れ

  • きめ細やかな地域病院との連携

    かかりつけの病院・クリニックから慶應義塾大学病院へご紹介いただいてください。月曜日午前の林田医師の外来にて診察します。
    医療機関からの診療予約については
    「患者さんの紹介について(医療機関のみなさまへ)」を参照ください。患者さん自身が診療予約をする場合は「診察のご予約の流れ」を参照ください。
    遠方からの受診希望の方は、初診外来を省いて直接、検査入院いただくことも可能なケースがありますので「遠方より受診希望の患者さんへ」をご確認ください。

  • 外来検査(経食道心エコー、必要に応じて心臓CT)

    当院では原則として、外来で検査を行っています。経食道心エコー検査は胃カメラと同様に、側臥位でエコープローベを挿入し検査致します。当院では鎮静薬を用いて検査を行っています。*日本人は欧米人に比較して左心耳が大きいと言われており、この治療が適さない患者さんが一定数いるといわれています。また、最近では心臓CTにより左心耳の形態を把握し、術前の治療プランを検討するのに利用することもあります。

  • ブレインハートチームカンファレンス

    慶應ブレインハートチームの医師たちが治療方針に関して話し合います。検査結果を踏まえてご本人の状態、病状およびご希望も加味したうえで、循環器内科・心臓血管外科・神経内科・麻酔科の各専門領域の知見を総動員し、もっともご本人のためになる治療方法を検討していきます。

  • 入院

    治療の数日前に入院となります。入院の準備・注意点などについては
    慶應義塾大学病院「入院される患者さん・面会の方」を参照ください。

  • 施行

    ハイブリッド手術室に入室して頂き、全身麻酔での留置を行います。ブレインハートチームのメンバーで治療に当たり、治療が終わりましたら集中治療室に帰室となります。

  • 施行後・リハビリ

    一般病棟に戻ってから、1日でも早くお元気に退院できるようにリハビリを行います。理学療法士・看護師を中心とした親身なケアを行います。

    検査入院時に治療に備え身体・栄養状態をしっかりと確認します。事前に適度な運動を行っていただく場合もあります。
    治療後は早く日常生活に戻れるよう翌日から積極的に身体を動かします。

  • 退院

    治療の経過が順調で、リハビリにより問題なく日常生活が送れるようになりましたら、退院となります。通常術後2日から4日程度です。

  • 退院後の生活

    塩分・水分制限を守り、処方されたお薬(抗血栓薬など)を飲んでください。 活動の制限は設けないことが一般的です。
    左心耳をデバイスが十分に閉鎖していることを確認するため、術後45日および6か月をめどに再度経食道心エコーを施行させていただいております。
    定期的に外来通院をお願いしており、地域病院と連携しながら治療後もしっかりと医療をお受け頂くことができます。

慶應義塾大学病院の強み

  • 臨床治験より経カテーテル左心耳閉鎖術治療に参加

    当院は経カテーテル左心耳閉鎖術の治験より手技に参加しており、良好な成績を収めています。これまでにも多くの症例を検討しております。

  • 大学病院ならではの各科との連携

    ブレインハートチームで適応に関して十分に議論させてい頂きます。万が一、経カテーテル左心耳閉鎖術が難しい場合でも、心臓血管外科医師の判断で胸腔鏡下に左心耳閉鎖術も検討いたします。

  • 豊富な構造的心疾患(Structual Heart Disease)症例

    当院では経カテーテル左心耳閉鎖術に限らず、大動脈弁に対するTAVIや僧帽弁に対する経皮的僧帽弁接合不全修復術等豊富な症例を経験しております。左心耳に限らず、弁膜症でお困りの際にはいつでも当科へご相談ください。詳しくは、下記リンクも参照下さい。

    TAVI:http://www.keio-minicv.com/tavi
    経皮的僧帽弁接合不全修復術:http://keio-minicv.com/mitraclip/
  • 総合病院の安心感

    治療を受ける高齢な方は体力的な問題があったり、他の病気を抱えていたりと不安な面も多くあると思います。ですが、総合病院である慶應義塾大学病院は治療に直接関わる診療科以外にもさまざまな診療科のスタッフが在籍しており、万が一の際にも迅速な対応ができます。

  • きめ細やかな地域病院との連携

    首都圏のみでなく、関東全域やさらに遠方の地域病院とも密に連携をとっております。
    垣根の低いスムーズな連携を行うことで、より患者さんに寄り添った医療をご提供できるようにしています。

慶應ブレインハートチーム

経カテーテル左心耳閉鎖術にはカテーテル治療専門医、心臓外科専門医、イメージング専門医、神経内科医、
心臓麻酔専門医やその他コメディカルなどからなる強固な「ブレインハートチーム」の形成が必要不可欠です。
慶應義塾大学病院でも専門のブレインハートチーム体制を整えて、万全の体制で治療を行っています。

  • 循環器内科特任准教授 心臓カテーテル室長林田 健太郎

    経皮的左心耳閉鎖デバイスは、直接左心耳を心臓内から開胸することなく閉鎖するためのデバイスとして、2019年9月に保険適応になった新しいカテーテル治療です。
    当院では2017年に行われた治験より参加し、このデバイスを使用しています。
    これまで治療を受けた患者さんは抗凝固薬を中止することができ、出血のリスクに怯えることなく生活を送っていただくことができています。
    当院では心臓カテーテル班、不整脈班、心機能室、病棟、神経内科、心臓外科、麻酔科、放射線科、コメディカルなどからなるブレインハートチームを形成し、患者様に最善の医療を提供できるよう日夜努力を続けています。

  • 循環器内科特任講師 不整脈班木村 雄弘

    心房細動は致命的な不整脈ではありませんが、その合併症である心原性脳梗塞はしばしば致命的となります。当院不整脈班では、こうした取り返しのつかない合併症を未然に防ぐため、心房細動の根治を目指してカテーテルアブレーションを行っています。
    しかし、すべての不整脈が根治できるわけではなく、また、ご高齢の方や、抗凝固療法をできない方には カテーテルアブレーション をお勧めできない場合もあります。このように、心房細動は年齢とともに増加するありふれた不整脈でありながら、治療の選択肢が限られてしまう現状がありました。左心耳閉鎖術はこうした状況において、新しい治療選択肢となり得ます。
    Structural heart diseaseのエキスパート、神経内科医、不整脈班がコラボレーションすることで、より安全に最適な治療を提供できるよう努力しています。

  • 神経内科専任講師伊澤 良兼

    脳梗塞の予防には、様々な観点からの評価・治療が必要となります。
    また、一度、脳梗塞を発症した場合には、その脳梗塞がどのような原因で起こったのかを正確に評価することが必要です。
    神経内科では、循環器内科の医師と協力しながら、それぞれの患者さんにとって、どのような治療、管理が最適であるかを、検査結果に基づいて慎重に検討しながら、最善の対策を立てていきます。
    左心耳閉鎖の治療についても、神経内科(脳卒中)の専門の立場から、治療の必要性などを慎重に判断し、最適な治療が行われるように協力しています。

  • 循環器内科猪原 拓

    左心耳閉鎖術は本邦では新しいカテーテル治療ですが、私が留学していたカナダでは10年以上前より行われている実績のある治療です。
    私は、カナダのなかでも左心耳閉鎖術の治療に定評のあるバンクーバー総合病院で研修を行い、実際に多くの患者さんの治療に従事し、経験を積みました。また、日本ではまだ承認されていないものの、今後の導入が期待されている新しい左心耳閉鎖術デバイスを用いた手術も経験する機会に恵まれました。
    こうした海外での経験を当院の診療に還元し、最善の治療を提供できるように努力して参ります。

Q&A

  • 遠方なのですが、慶應義塾大学病院で治療は受けられますか?

    もちろん受けられます。また、遠方の患者さんの場合、初診外来を省き、直接検査入院頂くことも可能です。
    詳しくは、経カテーテル左心耳閉鎖術について治療の流れ、遠方より受診希望の患者さんへを参照下さい。

  • 経カテーテル左心耳閉鎖術の治療費は?

    経カテーテル左心耳閉鎖術には健康保険、高額医療制度が適応されます。
    費用は年齢や所得によって異なりますが、おおよそ4万~26万円です。

    例:経カテーテル左心耳閉鎖術での入院(約5日~10日)の場合
    (高額療養費制度[一般所得者]を利用)
    70歳未満の方70歳以上の方
    約10万円約6万円

    ※部屋代・食事代は別途必要です ※上記はあくまで概算です。

  • どのような患者さんが具体的に対象となりますか?

    出血リスクが高く抗凝固薬を長期間内服できない方が対象です。

  • 全身麻酔ですか?局所麻酔ですか?

    全身麻酔で行っています。術後手術室で抜管致します。

  • ワルファリンはいつ中止できますか?

    手術後45日間継続し、経食道心エコー検査が問題なければ中止可能です。

  • 入院期間はどれくらいですか?

    合併症の有無にもよりますが、約5日間と考えていただければと思います。

地域と医療連携

慶應義塾大学病院では地域の医療機関と連携して治療を進めます。
経カテーテル左心耳閉鎖術が必要な方をご紹介いただいたり、経カテーテル左心耳閉鎖術を行った方のケアを連携して行います。

お問い合せ

「心房細動と診断されたが、経カテーテル左心耳閉鎖術が受けられないか?」
「診察した高齢な患者さんが心房細動で外科的治療が困難だと思われるが、経カテーテル左心耳閉鎖術はできそうか?」
などの経カテーテル左心耳閉鎖術に関するお問い合わせには、お問い合わせフォームより受け付けています。

お問い合わせフォーム
慶應義塾大学病院 外来予約センター 03-3353-1257 (午前9時00分~午後4時00分)
経カテーテル左心耳閉鎖術にご興味のある医師の皆様へ

慶應義塾大学病院での経カテーテル左心耳閉鎖術を含めたSHDのカテーテル治療について紹介医の先生方向けにわかりやすいパンフレットを作成しました。どうぞご利用くださいませ。

SHDのカテーテル治療の紹介パンフレット(準備中)